

【作者プロフィール】 あいはら ひろゆき Hiroyuki Aihara
仙台市出身。早稲田大学第一文学部卒。長女の誕生をきっかけに絵本世界と出会い、2002年に初めて発表した絵本「くまのがっこう」が人気シリーズとなる。他の絵本作品に、『てをつなご。』(植田真/絵)、『またあえるよね』(こみねゆら/絵)など。童話作品に『せかいでひとつだけのケーキ』(あだちなみ/絵)、児童文学作品に『ラベンダー』(以上すべて教育画劇)などがある。
東京都在住。
2002年に「くまのがっこう」で、作家デビューしたあいはらさん。
それまでは広告会社に勤めていて、絵本とは違った世界で活躍していました。最初の1冊をコツコツと作り、出版社に自分たちで足を運んで出版が実現。心温まるストーリーで展開される絵本は、今ではフランス語訳が出るほど人気を呼んでいます。
作家になるまでの道のりや、登場人物に込めた思い、大切にしていること、そして 将来作家を目指してがんばっている方たちへ、メッセージをいただきました。
「絵本の中には、くまたちが繰り広げる壮大な冒険はありません。ボクが伝えたいのは、“フツウに暮らすって、楽しいよね”ということなんです」。
●作家になる前の仕事…それまでは「マーケティングプランナー」といって、テレビCMや広告のコンセプト(発想や概念)作りや、キャンペーンの企画を立てるといった仕事をしていました。2000年頃までの約10年間は、とても忙しく過ごしていました。でもそのころ、会社がいろいろな変革の時期に来ていて、ちょっと「ゆとりの時間」ができたんです。それまでは、メチャメチャ忙しい毎日だったから“1年くらいはゆっくり暮らしてもいいかな”という気持ちでした。ちょうど長女が生まれたので、育児も楽しんでいましたね。
●絵本との接点…
絵本に触れる機会は、娘が生まれるまで、ほとんどなかったんです。自分が子供のころに、読んでもらっていたのでしょうが、記憶には残っていません。ボクは、どちらかというと「TVアニメ世代」として育ちました。 1999年の長女の誕生をきっかけに、書店で絵本を手にするようになり、読み聞かせをするうちに、ボク自身がその面白さに惹き込まれていったんです。「この作家のシリーズはいいな」とか「次は、こんなテーマのものを探してみよう」など。子どものために読んでいた絵本を、いつの間にか自分のためにも読むようになりました。娘は、生まれてまだ数カ月だったから、内容の違いまで深くは理解できなかったと思うんですけどね(笑)。
●小さい頃になりたかった職業…
ボクはもともと作家志望でしたが、早々に挫折してしまって。しかも、作家志望なのに、小説はちょっと苦手で(笑)。何を書くべきなのかよく分からず、作家への道を置き去りにしていました。でも、短い文章のなかに、本質的なことまでギュッと盛り込める絵本に出会い、「これなら書きたい。自分の書きたいものは、この分野だったんだ」と思ったんです。
●「くまのがっこう」ができたキッカケ…
あだちさんとは、以前手がけていた「Girlie(ガーリー)」という雑誌制作で出会いました。彼女が絵を描いていることや、ドイツのぬいぐるみ「シュタイフ」の仕事に関わっているのは知っていて。軽い気持ちで「くまを描いてみたら」と勧めました。レポート用紙いっぱいに描かれたその絵は、とてもかわいくて。「いつかカタチにできたらいいな」と思いました。
当時、娘がまだ1歳半くらいで、毎日保育園の送り迎えをしていたんです。園に行くと、ちょうど絵本に登場するくまたちのような子が10人や20人で、トコトコと歩いていて。「誰かが来た!」となると、みんなでいっせいに窓ガラスに集まります。並んでごはんを食べたり、遊んだり。そういった光景を、毎日送り迎えの際に見ていて“かわいいなぁ”とずっと思っていました。すると“保育園の子どもたち”と“くまの絵”が、頭の中でガチャッと重なって。これはまさしく「くまのがっこう」だ、と絵本のイメージができました。
あだちさんが描くジャッキーは、ぬいぐるみをベースにしています。頭が大きかったり、2等身だったりとか、どこかアンバランスで親しみやすい登場人物は、保育園に通っている子たちと非常に似ているわけです。だから、みんながかわいいと感じるのでしょうね。絵本のタイトルは、とりあえず付けていた「くまのがっこう」を、そのまま正式タイトルにしました。
●大事にしたいこと…いちばんおチビのジャッキーは、お兄ちゃんたちのために色々とがんばるんですけど、“がんばりの容量”からあふれてしまったら、最後は「あ〜〜ん」と泣いてしまう。それって、子どもの自然な姿ですよね。ストーリーを組立てるにあたっては、娘の心の動きをよく観察しています。「くまのがっこう」が、お母さんたちからも支持していただいているのは、実際の子どもの世界と、どこか似ているからなのかもしれません。
絵本には、くまたちの壮大な冒険があるわけではないし、ワクワク・ドキドキする事件はあまり起こりません。どちらかというと「1日の生活」が、この本のコンセプトです。“朝起きて、散歩に行く。特別なことは起こらなかったけれど、今日も幸せなきもちで、みんなで眠りました”といった感じ。特に初期の作品ではそれが多く、途中でジャッキーが泣いてしまうシーンが入っています。
自分が描きたいのは、「フツウに暮らすって、楽しいよね」っていうこと。実際、家族で暮らしていくことは、小さな幸せの積み重ねだと考えています。その繰返しが楽しいし、そこにはハッピーな出来事が、たくさん詰まっているんだと思うんです。
●作家を目指している方へ…
好きなことを「続ける」ことが大切かなと思います。作家は独立するまでなかなか大変ですし、その後もラクな道が用意されているわけではありません。でも楽しめるなら、ぜひ続けてほしいです。たまに「どうやったら絵本作家になれますか?」と尋ねられますが、文章と絵を合わせて1冊綴じれば、その方はもう絵本作家。今は、本の出版もいろんな手法がありますから、大手の出版社から発刊されることだけが全てではないはずです。
絵本作りは、子供たちに愛されて形として残せるので、とても幸せな仕事だと思いますよ。


あだち なみ Nami Adachi
多治見市出身。多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒。
玩具メーカーにて、「くまのがっこう」シリーズの作画、ぬいぐるみなどのグッズデザインを手がける。
2003年に絵本作家、デザイナーとして独立。あいはら氏との他の絵本作品に、「くまのこミン」シリーズ(講談社)、『りんちゃんとあおくん』(ポプラ社)、『うさぎちゃんとゆきだるま』(教育画劇)、『フラニーとメラニーもりのスープさん』(講談社)などがある。絵本のほかにも、雑貨や子供服、生地のデザインなど活動の幅を広げている。
東京都在住。
子どもの頃は、着せ替え人形で遊ぶことや、絵を描いて過ごすのが大好きだったというあだちさん。2003年に絵本作家・デザイナーとして独立し、今は絵本の他にも雑貨や生地のデザインなど、活躍の場を広げています。あいはらさんとの出会い、きれいな色が生まれるヒント、そして、絵本作家を目指してがんばっている方たちへ、メッセージをいただきました。
「絵本の登場人物たちを心から愛しているので、彼らに愛情を込めて、真剣に描いています」。
●子どものころ…絵を描いたり、着せ替え人形で1日中ずっと遊んでいる子でした。とくに人形の着せ替えは大好きで、自分でデザインを考えていたくらい。母が洋裁をしていたので、わたしが幼い頃に着ていた服は、ほとんどが手作りでした。着るものや雑貨をハンドメイドすることは、ごくあたり前の光景だったように思います。学校に通い始めてからも物作りが好きで、このままずっと「つくること」を続けていくんだろうなと、漠然と思っていました。
●絵本制作への扉…
あいはらさんが手がける「Girlie(ガーリー)」という雑誌制作に参加しているときに、彼から声をかけてもらって。その時「何か新しい世界がつくり出せる」と、直感的な勘が働きました。絵本作りに関しては2人とも初めてだったから、本当に完成するかどうか、まったく分からなかったんですけどね(笑)。最初の作品は、とにかく無我夢中で描きました。
●絵のヒントとなるもの…
「くまたちの背景もかわいい」と、嬉しい言葉をいただくことがあります。そんなに意識していませんが、カーテンや棚などのインテリア家具、お花などの小物は“ふだん自分が見ているもの”が基本。それを、紙の上で表現しています。わたしは、家具の配置などには割と凝るほうなんです。だから絵本の中でも「この家具、どこに置いたらいいかな?」と、模様替え感覚でアレコレ構想をめぐらせるのが楽しいです。 プライベートでは、ショッピングによく行きます。仲のいい店員さんとお話をしたり、いろんな服を着させてもらってコーディネイトを考えたり。素敵だなと思った洋服の柄や色の組合せを自分なりにアレンジすることもありますよ。
●きれいな色の組合せを探して…
ページによっては、図案よりまず「色」が浮かぶ場合があります。例えば、「レモンイエロー」と「コーラルピンク」のやさしい色を組合せた誌面にしよう、とか。“子ども向けの本だから、子どもらしい色を使おう”とは、考えていません。世の中には美しい色がたくさんあるのだから、それを伝えたいです。
●大切にしていること…登場人物たちのことを本当に愛しているので、彼らに愛情を込めて真剣に描くことです。10年近く描いていますが、少しずつ自分の好みなども変わってくるみたいで、絵も少しずつ変化しています。最近は、水彩画をそのまま生かすような見せ方を大切にしています。
●イラストレーターを目指している方へ…
自分の気持ちを大切にして行動を起こしていれば、いつかチャンスは巡ってくると思います。たとえ誰からも見られていなくても、今自分がやっていることを大切に…。常に全力でやることです。そうしないと、次のステップになかなか辿り着かないと思うので、精一杯の力で行動してみてください。愛情を持って、自分の作品と向き合ってくださいね。


「くまのがっこう」は、山の上の寄宿舎で暮らす12匹のくまたちの、心温まるお話です。絵本は、2002年8月の発売以来大人気シリーズとなり、今ではフランスや台湾でも海外出版されるなど、海外からも注目されています。ぬいぐるみをはじめとするグッズや、音楽CDも人気を呼び、イベントやコンサート、NPO「子供地球基金」への支援など絵本の枠を超えて、子どもたちを応援する活動も積極的に行っています。
文・あいはら ひろゆきさん
絵・あだち なみさん
お2人にお話をうかがいました。
●本を出版するまでに、どういった経緯がありましたか?あいはらさん>
絵本作りに関しては2人とも素人でしたから、まずは自分たちで1冊「サンプル」を作りました。表紙を作って、出版社にお願いに。いわゆる「持ち込み」ですね。あだちさんが描いていた初期のジャッキーは、今よりも少しアートっぽいタッチだったかと思います。その後本が発刊され、シリーズ化されてからは、少しずつ絵のトーンが変わっていきました。
あだちさん>
最初は何も分かりませんでした。でも、自分ひとりだったら出来ないことも、あいはらさんとだったら完成できるかもという、直感的な勘が働きました(笑)。
●本を出して、なにか反響はありましたか?
あいはらさん>
2人とも新人でしたから、出版して最初の半年くらいは、反応が少なかったです。それでも、自分たちのペースで作って、また半年後に2作目(※1)を作りました。それは、くまの兄弟たちが、力を合わせてとびきり美味しいパンを作るという話で、楽しい内容が大勢の方の目にとまり口コミで伝わりました。お母さんたちからも、反響をいただいて。嬉しかったですね。
※1「くまのがっこう ジャッキーのパン屋さん」
●1日のどの時間帯に、仕事をしますか?
あいはらさん>
ボクは、電車の中でよく考えます。机の上で「さあ書くぞ」という感じは、ほとんどないですね。1冊をどんなストーリーにしようかなと考える時間がかなり長くて、1話の構想期間は4カ月くらい。頭の中で、きちんとイメージが完成するまでは、実作業には入りません。なるべくじっくり考えて熟成させた方が、いいものが出来ると思っています。だから、書き始めるとすごく早いですよ。
あだちさん>
絵を描くのは、だいたい朝です。朝4時ごろに起きて、紅茶を飲んで目を覚まし、夕方まで集中して描きます。わりと計画的に「今日はこのページを描く」と決めていますね。1日のうちで集中できる時間は限られているので、計画しないとページが進まなくなってしまいます。午後、ポワンと眠たくなって「もうダメだ」と思ったら、潔くあきらめて昼寝。なるべく規則正しい生活を心がけています。
●文章とイラストの合体は?
あいはらさん>
まず、ボクがストーリーを書いて、あだちさんがざっとした鉛筆スケッチを描きます。そのあと、2人でシーン展開についての打ち合わせを行います。時間をかけて、互いのアイディアを出します。絵のイメージを細かく擦り合わせたり、カット数を考えたり。「このシーンは、こんな風にしたらもっと良くなるんじゃない?」と意見を交わしながら、話をブラッシュアップします。
あだちさん:絵>
その話し合いが、「くまのがっこう」にとって、とても大切だなと思うんです。2人で話すことで、新たな発見や喜びもあって。その時に“ああ、この絵本は大丈夫だな”と感じます。
●主人公は、ジャッキーですか?あいはらさん>
実は、主人公の設定にあまりこだわっていません。「くまのがっこう」は、1作目から“12匹のくまの話にしよう”と考えていました。ジャッキーが象徴的な存在ではありますが、主役というわけではなく“集団のかわいさ”を大切にしています。遠くで見ているとみんな同じようだけど、よく観察すると違う。それで丁度いいのかなぁ、と思っています。
●ファンの方から、いろいろな質問やお願いが寄せられるそうですね?
あだちさん>
そうですね、たくさん(笑)。「デイビット(ジャッキーの初恋の相手)を、多く登場させてください」とか、「ジャッキーは何歳ですか?」、「ジャッキーのお母さんは、どこにいるの?」など、よく聞かれます。
○その時は、なんて答えますか?
あいはらさん>
「ちょうど、キミと同じくらいの年齢だよ」とか「それはヒミツだよ」とか(笑)。答えは、この本を読んでくださっている方の想像でいいと思うんです。子どもたちは、ジャッキーたちのことを、自分のお兄ちゃんや妹として好きになってくれているようなので、それぞれにとって身近な存在であれば良いのかなあ、と思います。寄せられるお手紙や読者カードには、すべて目を通していますよ。
取材場所:東京都内「キャラ研」にて。